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院長の月刊コラム(9月)糖質制限食を考える 〜その2〜

 前回から始めた、糖質制限食の話です。私は糖質制限食に対して、以下のような理由で否定的です。

    1. 実行の問題:継続できなくて当たり前の不自然な食事になる

    2. 理論の問題:糖質を悪者にして問題の本質をすり替えている

    3. 未解明の問題:日本人に蛋白質中心で大丈夫という保証はない

 その説明は徐々に進めるとして、そもそも食事療法は半年や一年頑張ってそれで終了という性質のものではありません。51020年と続けるためには、とことん考えて納得する必要があります。もう少し、基礎的な話にお付き合いください。

〜単純糖質その⑵;ブドウ糖〜

 ブドウ糖は、果糖と違ってグリケーションを起こしにくい安定した物質です。そのためか、自然界のエネルギー源として植物から動物まで広く利用されています。そして真核生物(細胞に核がある生物)において、特別な進化を遂げました。真核生物のもう一つの特徴は、細胞内にミトコンドリアをもつ点です。ミトコンドリアは、で示すTCA回路(クエン酸回路)という一連の酵素群を備えています。呼吸によって空気中から取り込んだ酸素を使い、ブドウ糖を水と二酸化炭素まで完全燃焼させてエネルギーを取り尽くす代謝経路です。生物の授業で習った方も多いと思います。真核生物は、自らの大切な遺伝情報を核という容器に入れて守るように進化した生き物です。そのグループに属する生き物は、植物から動物に到るまで全てがミトコンドリアを持っています。それは、いかにこのシステムが生存競争に有利であったかを示しています。ミトコンドリアは、元々独自の遺伝子を持つ一個の生命体でした。たまたま別の細胞に飛び込んで共存共栄になったので、今日までその関係が続いていると考えられています。ちなみに1995年に発表され後に映画化もされた瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」は、そんなミトコンドリアが意思を持って人類の支配を企むというドキドキしながら学べるミトコンドリアの入門書です。

図:図:TCA回路.png

〜ブドウ糖と脂肪の使い分け〜

 このTCA回路、別の意味でもなかなかの優れものです。ブドウ糖だけでなく脂肪を分解してできた脂肪酸も、エネルギー源として利用できるからです。植物は動かないのでカサ張ることは気にしませんから、ブドウ糖をそのままつなぎ合わせてエネルギー源として貯蔵します。それが芋や米に含まれる複合糖質、俗称デンプンです。それに対して動物は動く必要があるので、エネルギーを蓄えるなら軽くてカサ張らない方が有利です。複合糖質は1gが4kcalですが、脂肪は1gで9kcalになります。この違いは分子中に含まれる酸素(O)の量によるのですが、とにかく2倍以上の差ですから、蓄えるなら脂肪です。

 体重70kgのヒトで、体内にある糖質と脂肪の量を計算してみます。糖質は、血液中などにブドウ糖が20gと筋肉中などにグリコーゲン(複合糖質の一種)として500gほど、合わせてエネルギー量として2000kcal余りです。一日生きるために最低限必要なエネルギー(基礎代謝といいます)は1000kcal前後ですから、二日の絶食で尽きてしまいます。それに対して脂肪の量は、体重70kgで体脂肪率20%のヒトなら70×0.2=14kg14000g)ですから、14000g×9kcal120000kcal以上になる計算です。

 では脂肪の方が重要なのでしょうか?それは違います。ブドウ糖と脂肪は、使われ方が違うのです。TCA回路はバーベキューの炭火と同じで、着火に手間はかかるけれど一度燃え始めると長く安定してエネルギーを出し続けてくれます。平穏に生きている時、我々はミトコンドリアで脂肪酸をジワーッと燃焼させています。しかし、急に大量のエネルギーが必要になる時、たとえば敵に襲われて全力で逃げねばならない時、TCA回路では間に合いません。そこでブドウ糖の出番です。細胞内に取り込まれたブドウ糖は、いきなり2つに叩き割られて即座にエネルギーを放出します。その量はTCA回路で完全燃焼した時の20分の1でしかありません。しかし、ブドウ糖を次々に取り込み叩き割り、20分の1のエネルギーをかき集めながら、筋肉細胞は全力疾走を続けるのです。これを無酸素運動(または嫌気性代謝)と言います。今月は、この辺にしておきます。来月は、糖質と脂肪と蛋白質の相互関係に話を進める予定です。もう少しで基礎的な話は終わります。

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